
小売業界では、顧客ニーズの多様化や競争の激化により変革が不可欠となっています。そこで活用が急速に進んでいるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
本記事では、小売業におけるDXの定義や、その取り組みによるメリットを解説するとともに、実際に成功を収めた事例を紹介します。
DXとは

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、市場の競争力や経済の活性を目的に経済産業省が提唱している概念です。
企業や組織がデジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセス、さらには企業文化や価値観を根本的に変革し、競争優位性を確立する取り組みを指します。
単なるデジタル化(アナログ業務をデジタルに置き換えること)に留まらず、技術を活用して新たな価値を創出し、顧客体験を向上させたり業務の効率化や新しい市場の開拓を目指したりすることが特徴です。
小売業DXの現状

小売業界では、生き残りをかけた新たな取り組みとしてDX化が求められています。独立行政法人 中小企業基盤整備機構によると、DXに取り組んでいる、あるいは検討している小売業は2022年の16.0%から2023年には22.0%に増加しています。
参考:中小企業のDX推進に関する調査(2023年)
https://www.smrj.go.jp/
従来の店舗販売だけでは市場競争に勝てず、オンラインとオフラインを融合させた新しい販売モデルの構築が求められています。その理由についていくつかあげていきましょう。
消費行動の変化
小売業DXが注目される理由の一つに、消費者の行動が大きく変化している点があります。
かつては店舗に足を運び、商品を直接手に取って購入することが一般的でしたが、現在ではスマートフォンやパソコンを使ったオンラインショッピングが主流になりつつあり、SNSなどを活用した情報収集も当たり前となってきています。
また商品そのものだけでなく、購入までのプロセス体験全体の質を重視する傾向が強まっています。パーソナライズされた顧客中心のサービスを効率的かつ効果的に構築するためには、デジタル技術の活用が不可欠といえるでしょう。
人材不足
小売業DXが推進される背景には、人材不足もあげられます。慢性的な労働人口の減少、人件費の上昇などもあり収益を上げるための戦略的な販売モデルを構築するのは難しいのが現状でしょう。
DX化することで業務を効率化できれば、人材は接客や戦略立案に注力しやすくなります。また、システムで収集したデータを分析できる人材を育成できれば、長期的な事業継続、文化醸成、成長などに寄与できるでしょう。
データ活用の重要性
DXを成功させる鍵となるのが、データ活用です。小売業では、顧客の購買履歴、商品ごとの売上データ、在庫状況、さらには店舗ごとの売上傾向など日々膨大なデータが生まれています。
これらのデータを分析し活用することで、トレンドの把握や経営の意思決定をより的確に行えます。またAIや機械学習を活用できれば、顧客一人ひとりの趣向やニーズに応じたサービスを提供することも可能です。
小売業がDXを取り入れるメリット

小売業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入は、従来のビジネスモデルでは対応が難しかった課題を克服し、持続的な成長を実現するためにDXは欠かせない要素となっています。
業務効率化や顧客満足度の向上につながり、最終的には競争力を高め収益の上昇といった結果につながる可能性が高くなるからです。ここでは、事業者の利益につながるDX導入のメリットについて具体的に説明します。
多様な顧客ニーズに対応
消費者の購買行動が多様化する中、小売業はDXを活用することで顧客一人ひとりのニーズに対応したサービスを提供できるようになります。
例えば、ECサイトやアプリを通じて顧客の購買履歴や検索履歴を分析することで、個別の趣味嗜好に合った商品を提案したり、お得なクーポンを発行したりするサービスが可能です。
また確実に商品を受け取るためのリアルタイムの在庫管理チェックシステムや、オンラインとオフラインを組み合わせたオムニチャネル戦略を採用すれば、顧客が店舗でもECサイトでもスムーズに購買できるようになり顧客満足度の向上に寄与します。
業務の効率が向上
DXは、小売業の業務効率を大幅に向上させる手段としても注目されています。例えば、店舗の在庫管理や発注作業にAIやIoTを活用すると在庫の過不足を自動的に最適化できます。
特に商品の仕入れや仕分け、確認作業などを効率化し、物流センターとのやりとりも円滑になるでしょう。
またPOSシステムなどを導入すれば、販売データのリアルタイム把握、需要予測やプロモーションの効果測定が可能です。業務効率化は、従業員がコア業務に集中しやすく生産性向上やコスト削減につながります。
人材不足の解決
小売業界では、慢性的な人材不足が大きな課題となっていますが、DXはその解決に貢献します。例えば、レジ業務や棚卸しといった単純作業を自動化することで、従業員の業務負担を軽減できます。
これにより、限られた人員であっても店舗運営を円滑に行うことが可能です。また、オンラインチャットボットやAIカスタマーサポートなど顧客対応の一部を自動化できれば、人的リソースを効率的に活用できるでしょう。
さらにバックオフィス業務をデジタル化することで、リモートワークも実現できます。育児や介護などでフルタイム勤務が難しい人材の活用も可能となり、人手不足の解消につながります。
人的ミスの軽減
小売業では、人的ミスが業務の効率や顧客満足度に直接影響を与えることが少なくありません。例えば、在庫管理のミスにより商品が欠品したり、会計ミスが発生して顧客の不満を招いたりすることがあります。
そこで、在庫管理システムや電子決済などを取り入れることで、これらのミスを大幅に削減することが可能です。正確かつスピーディーな対応は、顧客の信頼を獲得し企業ブランドの価値を高められるでしょう。
小売DXの取り組み成功事例

小売業界では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを通じて、新たなビジネスモデルを構築し成功を収めている企業が増えています。
そこで日本を代表する小売企業を中心に、時代に合わせてどのようにDXを活用して競争力を高めたのか、具体的な事例を取り上げて解説します。それぞれの事例から、DX導入のヒントやポイントを見つけていきましょう。
店舗とオンラインをバランスよく取り入れたユニクロ
ユニクロは、オンラインと店舗を組み合わせたオムニチャネル戦略を推進し、DXの成功例として注目されています。
ユニクロのオンラインストアでは、商品在庫を店舗ごとにリアルタイムで確認できるシステムを導入し、顧客が近隣店舗で商品を受け取れる「クリック&コレクト」サービスを提供しているのが特徴です。
この仕組みにより、顧客はオンラインで商品を選び、店舗で試着や購入が可能となり、利便性が大幅に向上しました。
また、AIを活用して分析したおすすめ商品機能や、アプリを通じたクーポン配布、ポイントプログラムも強化しています。
さらに、店舗では電子タグを活用したセルフレジシステムを導入し、顧客の会計時間を短縮。オンラインとオフラインを融合した顧客体験の向上により、売上とブランド価値の両面で成果を上げています。
イオンモールアプリを導入したイオン
イオンは、顧客体験の向上と店舗運営の効率化を目的に「イオンモールアプリ」を導入しました。このアプリは、店舗情報やセール情報を配信するだけでなく、顧客ごとの購買履歴をもとにパーソナライズされた商品提案機能を備えています。
またアプリの電子決済機能やポイント管理機能で来店促進にもつなげています。
このような取り組みにより、イオンは顧客満足度を高めるとともに、店舗運営の効率化にも成功しています。また、アプリの利用データを活用したマーケティング戦略や店舗レイアウトの改善に役立てている点も、イオンのDXの特徴といえるでしょう。
自社アプリを活用した無印良品
無印良品は、自社アプリ「MUJI Passport」を通じて顧客との接点を強化し、DXを推進しています。このアプリで注目すべきは、店舗での利用が可能な電子クーポン機能です。
また商品検索や店舗在庫の確認、オンライン購入が可能であり、ユーザーにとって利便性の高いプラットフォームとなっています。
さらに、アプリには顧客からのフィードバックを収集する仕組みが組み込まれており、これをもとに商品開発やサービス向上に役立てています。
また、ファンを獲得・維持するためのSNS運用にも力を入れており、情報発信や顧客との円滑なコミュニケーションなどブランドロイヤルティの強化を実現しました。
半自動の発注システムを導入したローソン
ローソンは、店舗運営における効率化を目的に半自動の発注システムを導入し、DXを進めています。これは過去の販売データや天候、地域のイベント情報などをもとにAIが需要を予測し、最適な商品発注をサポートするシステムです。
店舗ごとの特性に合わせて調整可能で、地域ごとのニーズに対応した品揃えを実現し、在庫の過不足を防ぎ廃棄ロスを削減しています。
また自動釣銭機付POSレジの導入やセルフレジの運用を開始し、精算作業の手間がないためレジの混雑を回避するほか、盗難などの防止にもつながっています。
実際の注文をオンラインで行うIKEA
IKEAは、店舗での商品選びとオンラインでの注文を組み合わせた新しい購買体験を提供しています。顧客は、店舗で商品を見て、気に入った商品をスマートフォンでスキャンし、オンラインで注文できます。
これにより、レジでの待ち時間を削減し、顧客の利便性を向上させています。オンライン注文では自宅まで商品を配送してもらうことも可能です。
IKEAのオンラインストアでは、商品を注文する際に詳細な製品情報や寸法、さらには部屋のレイアウトに合わせた配置シミュレーション機能を提供しています。これにより、顧客は自宅にいながら購入後の使用イメージを確認できます。
まとめ

小売業を取り巻く環境は、消費者の購買行動の変化や人材不足など日々変化しており、DXはこれらの課題や業務改善、効率化を解決するための重要な手段となっています。
DXは、小売業の未来を大きく変える可能性を秘めています。小売業のDXを実現するには、シフト管理システムは非常に有用です。労働力の最適化や業務効率の向上、顧客サービスの向上など、多くのメリットをもたらすでしょう。
DXについてより深く理解し、自社のビジネスに活かすきっかけとなれば幸いです。