ホテル・旅館などの宿泊業は、休みなく24時間365日稼働しているイメージはあるでしょう。稼働時間が長いため、交代勤務をする必要があり、シフト表作成は必須の業務となります。
今回は、そんなホテル・旅館のシフト表を作成について、問題や課題、是非知っておいてほしいことについて解説をします。
ホテル・旅館のシフト作成に関するQ&A
Q1. なぜホテル・旅館のシフト作成は、他の業種と比べて特に難しいと言われるのですか?
A1. 主な理由は以下の3点です。
1. 繁閑差への対応: 週末や連休、季節によってお客様の数が大きく変動するため、その需要に合わせて過不足なくスタッフを配置する必要があります。人手が足りないとサービスが低下し、多すぎるとコスト増に繋がるため、的確な予測と配置が求められます。
2. 休みへの配慮: 世間が休みの日に働くことが多く、スタッフが休みを取りづらいという不満を抱えやすい業界です。そのため、希望休をできる限り叶え、有給休暇取得義務を遵守するなど 、従業員満足度への特別な配慮が不可欠です。
3. 「中抜け」勤務の存在: お客様のチェックインからチェックアウトまで対応するため、日中に長い休憩時間(中抜け)を挟む特殊な勤務形態が存在します。これは拘束時間が長くなるため 、スタッフ間の公平性を保つのが難しく、シフト作成を複雑にする一因です。
Q2. シフト作成の負担を軽減し、従業員満足度も向上させるためには?
A2. 以下の2つの重要な考え方の転換を提案しています。
1. 「休み方改革」で業績を上げる: 「休むことは悪いことではない」という考え方に立ち、連休の取得を促すなど、スタッフが気持ちよく休める環境を整えることが重要です。リフレッシュしたスタッフは生産性が向上し、他の施設に宿泊するといった経験を通じて自社のサービス改善のヒントを得ることもでき、結果的に業績向上に繋がります。
2. 「マルチタスク化」で業務効率を図る: 「フロント業務のみ」「客室係のみ」といった縦割り業務を見直し、一人のスタッフが複数の業務をこなせるようにする(マルチタスク化)ことです。これにより、忙しい部署を他のスタッフが手伝うことが可能になり、少ない人数でも効率的に店舗を運営できるようになります。
Q3. 既存の業務を見直すためのフレームワーク「ECRS」とは、どのようなものですか?
A3. 「ECRS(イクルス)」とは、業務改善を検討する際に、効果が大きい順にアイデアを考えるための思考のフレームワークです。以下の4つの頭文字を取っています。
* E (Eliminate: 排除): その業務は本当に必要か?なくすことはできないか?
* C (Combine: 結合): 他の業務と組み合わせたり、同時に行ったりできないか?
* R (Rearrange: 再配置): 作業の順番を入れ替えたら、もっと効率的にならないか?
* S (Simplify: 簡素化): もっとその業務をシンプルに、簡単にできないか?
ホテル・旅館におけるシフト表作成の難しさ
シフト表作成は単にスタッフにシフトを割り当て、マスを埋めれば良いというものではありません。スタッフの働き方そのものであり、従業員満足度にも大きく影響するものなのです。
毎年、これから忙しくなる書き入れ時を前に「辞めたい」と申し出てくるスタッフはいませんか?もしかしたらシフト表そのものに問題があるかもしれません。
重要なことであるは理解しているけれども、シフト表作成は難しいものなのです。まずは宿泊業におけるシフト表作成の何が難しくさせているのかを、いくつか挙げてみます。
繁閑にあわせた要員配置を考えなければならない
宿泊業というのは繁閑の差が激しい業界です。観光客をターゲットにしているホテル・旅館であれば、週末や連休などが最も忙しくなるでしょうし、出張などの会社員をターゲットとしているビジネスホテルであれば、平日が忙しくなるでしょう。
また曜日だけでなく、季節も影響します。海や山のレジャーを目的として使われる施設であれば、夏がハイシーズンでしょうし、紅葉であれば秋、スキーであれば冬がハイシーズンとなるでしょう。
これらの繁閑に上手く対応できるように、スタッフを配置しなければなりません。繁忙期にスタッフが足りなければ、運用が回らず、お客様に十分なサービスが提供できませんし、スタッフには負荷がかかってしまいます。逆に閑散期に必要以上のスタッフを配置してしまっては、コスト増につながるだけでなく、スタッフのモチベーションも下げてしまうかもしれません。
そんな繁閑に対応した勤務を割り当てるために、変形労働時間制を採用しているホテル・旅館は多いと思いますが、シフト作成者には、その繁閑に合わせた形でスタッフに適切なシフトを割り当てることが求められています。
しかしながら、繁閑に合わせたシフト表作成は簡単ではありません。法令や就業規則を守った上で、繁閑にも合わせてシフト表を作成しなければなりませんので、難易度は高くなります。
手作業では難しいようであれば、シフト表作成を支援するサービスやツールも活用することも必要かもしれません。
休みがとりにくく、不満に思っているスタッフが多い
ホテル・旅館などの宿泊業というと、何となく休みが取りづらいというイメージはないでしょうか?実際に有給休暇取得率が業界全体で低いという調査結果もあります。
世間一般の多くの人が休みのときに働く必要があり、他の業種の友人や家族との予定が合わせづらいなどの問題もあります。
休みに対して不満を抱えやすい業界であるため、スタッフが希望した休みはできる限り叶えてあげることが求められます。
また、2019年4月より有給休暇の取得義務化の法律も施行されましたので、シフト作成者は注意が必要です。しっかりと法令にもとづいた有給休暇を、スタッフに取得させる必要があります。
勤務の中抜けが発生する
1泊2日で旅館に宿泊したとき、部屋への案内、夕食の準備、布団敷き、朝食の準備、お見送りまで、ずっと同じ1人の仲居さんにお世話していただくケースがあります。その仲居さんは、どういう勤務をされているのか疑問に思った人もいるのではないでしょうか?
1日の仲居さんのスケジュールとしては、朝食の支度から始まり、チェックアウトの後、お客様をお見送りし、その後に一旦「中抜け」をして休憩をとります。その後、その日のお客様のチェックインのお出迎え、客室までの案内、夕食の準備、布団敷きなど行い、1日の勤務が終了します。
お客様がチェックインしてからチェックアウトするまでのお世話をする仕事ですので、どうしてもこのような中抜けが発生する勤務体系となります。
この中抜けですが、「拘束時間が長くなってしまう」「ゆっくり休めるわけではないため、常に仕事に追われているような気がする」というような意見があり、好ましく思っていないスタッフもいます。
このような中抜けの勤務があるシフト表作成は難しいですし、できるだけ、スタッフ間で公平な勤務となるような配慮が求められます。
ホテル・旅館のシフト表を作成する上で重要なこと
シフト表作成の業務を改善する際に、今まで通りと同じ考え方で、シフト表作成の省力化や質の向上に取り組んだとしても、大きい効果は得られません。
従業員満足度の向上や、生産性の向上などの経営課題を解決するためには、事業全体を見た俯瞰的な目線で、考え方を変えることも必要となります。
シフト表作成の考え方において、いくつか重要なポイントがあります。
休み方改革で業績を上げる
業績を上げるためには、ある程度の時間(量)を働くことは重要です。しかし、長時間勤務をしたり、重労働な勤務が続いたりすると、生産性は上がらず、業績も頭打ちになってしまいます。
休むことは決して悪いことではありません。休みの日に自己啓発に取り組むスタッフもいるでしょうし、ゆっくり休むことによってリフレッシュした状態で勤務することで、効率良く働くことができ、新しいアイディアも出てくるかもしれません。
特に宿泊業においては、自分自身が勤務しているところとは異なるホテル、旅館に泊まってサービスを受けることは、普段の業務を改善する上で勉強になるはずです。新たな旅行体験は、さまざまな発見があり、サービスを向上させるための工夫を考える上では非常に重要なことなのです。
スタッフが休みを希望する場合は、できるだけ叶えてあげる。最低月に1回は連休をとってもらうようにするなど、スタッフが気持ちよく休めるような環境を整える必要があります。
マルチタスク化で業務効率を図る
人手不足だからシフトが埋まらないのは仕方ない。スタッフに長時間働いてもらうのは仕方ない。そのような考え方になっていないでしょうか?
本当に今の業務の方法が最善と言えますか?
宿泊業においては、業務とスタッフの配置を縦割りで行っているケースが多いです。あるスタッフはフロント業務のみ行う、あるスタッフは客室係のみ行う、清掃を行う人は清掃の業務のみ行うというものです。
もしそれらの業務をマルチタスク化する(1人の人が複数の業務を行う)ことができればどうでしょうか?
例えば、チェックイン、チェックアウト時間帯でフロントが忙しいときには、客室係もサポートに回る。客室係の人が、中抜けの時間を清掃業務に変えて、中抜けをなくした勤務体系にする。
そうすることで、待ち時間が減る、残業が減る、少ないスタッフでも運営ができるなど、生産性が上がり、余裕をもって質の高いサービスが提供できるかもしれません。
当たり前を疑い、今の業務を見直してみる
縦割りの業務もそうですが、「そうでなければならない」といった思い込みで行っている業務は、多く潜んでいるものです。
例えば、1組のお客様に対して、同じ仲居さんが付きっ切りでお世話をすることは本当に必要でしょうか?それによって、別の業務に大きな負荷がかかっているかもしれません。前提を変えることで、もっと質の高いサービスが提供できたり、別の新たなサービスが提供できたりするかもしれません。
(決して必要ではないと言っているわけではありません。同じ仲居さんに対応してもらうことでお客様に安心感を提供できますし、細かな気遣いのあるサービスが提供できるメリットもありますので、その点も十分考えて検討します)
他にも365日営業をする必要はあるでしょうか?休館日を設けることは、スタッフに気兼ねなく休んでもらえることができますし、その分、稼働に必要な経費を抑えたり、全館メンテナンスの時間に割り当てたりすることもできます。
改善を考える際にはECRSというフレームワークが参考になります。
- Eliminate(排除する)・・・その業務を排除できないかを考えてみる。
- Combine(組み合わせる)・・・同時にできる業務はないかを考えてみる。
- Rearrange(並べ替える)・・・作業の順番を変えてみる。
- Simplify(簡素化する)・・・簡素化できないかを考えてみる。
Eが最も効果が大きく、C→R→Sの順に効果が小さくなるといわれていますので、まずは本当にその業務が必要なのかを疑ってみることから始めます。その結果、その業務が必要であれば、他の業務と一緒にできないかを考える。次に作業の順番を入れ替えたらどうか?簡素化できないか?というような形で検討していくと良いでしょう。
業務の割り当ての方法を考える前に、まずはその業務で改善できることはないかを考えることが重要となるのです。
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まとめ
今回は、ホテル、旅館などの宿泊業におけるシフト表作成の問題、課題、是非知っておいてほしいことについて解説をしました。人手不足の中で、法令や就業規則を守ったシフト表を作成することは、非常に難しい業務です。シフト表作成はさまざまなツール、サービスが提供されていますので、それらを活用することで、今までの業務より効率化を図ることはできるでしょう。
しかし、それだけでは不十分で、働き方自体の見直しや、業務の改善も同時に進めることで、より大きな効果が生まれると思います。既に新しい働き方を取り入れて、従業員満足度の向上、離職率の改善を図ることができたホテル、旅館があります。まずは、それら他社の事例を真似て、働きやすい職場にしていくと良いかもしれません。
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