
変形労働時間制とは、1か月や1年といった一定の期間を平均して週40時間以内に収めれば、繁忙期の日に8時間を超える所定労働時間を組めるようにする制度です。種類は1か月単位・1年単位・1週間単位の3つと、似た仕組みのフレックスタイム制があり、それぞれ上限時間や必要な手続きが違います。「残業代が出ない」「やばい」「ずるい」と言われることもありますが、正しく運用すれば所定労働時間を超えた分には残業代が出ます。この記事では、4種類の違いを比較表で整理し、残業代の判定方法を計算例つきで解説したうえで、違法になりやすい運用と正しいシフトの組み方を紹介します。
- 変形労働時間制とは?通常の労働時間制との違い
- 変形労働時間制の4種類の違いを比較表で整理
- 変形労働時間制が「やばい」「ずるい」「やめとけ」と言われる理由
- 違法になるケースと注意したい運用
- 変形労働時間制の残業代の計算方法|日・週・期間の3段階
- 変形労働時間制の導入手続き
- 変形労働時間制でシフトを正しく運用するには
- よくある質問
- まとめ
変形労働時間制とは?通常の労働時間制との違い
労働基準法では、労働時間の上限を原則として1日8時間・週40時間と定めています(労働基準法第32条)。これを超えて働かせると時間外労働となり、36協定の締結と割増賃金の支払いが必要です。
一方、飲食店の週末、小売業の年末、製造業の繁忙月のように、時期によって忙しさが大きく変わる職場では、毎日一律に8時間で組むと閑散期は人が余り、繁忙期は残業だらけになります。そこで、一定の期間を平均して週40時間以内に収めることを条件に、忙しい日は長く、暇な日は短く所定労働時間を配分できるようにしたのが変形労働時間制です。
| 通常の労働時間制 | 変形労働時間制 | |
|---|---|---|
| 所定労働時間の決め方 | 1日8時間・週40時間以内で決める | 期間を平均して週40時間以内なら、特定の日・週に8時間・40時間を超えて決められる |
| 8時間を超えて働いた場合 | 8時間を超えた分が時間外労働 | 所定を8時間超に決めた日は、その所定を超えた分から時間外労働 |
| 導入の手続き | 不要 | 就業規則や労使協定で定め、多くは労働基準監督署へ届出 |
厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、変形労働時間制(フレックスタイム制を含む)を採用している企業は60.2%で、内訳は1年単位が30.3%、1か月単位が26.4%、フレックスタイム制が8.3%、1週間単位が1.1%です(出典:厚生労働省)。
変形労働時間制の4種類の違いを比較表で整理
変形労働時間制には、期間の長さが異なる3種類があります。始業・終業時刻を従業員が決めるフレックスタイム制も、期間で労働時間を管理する点が共通するため、一緒に比較されることが多い制度です。
| 種類 | 期間 | 対象 | 1日・1週の上限 | 定める方法と届出 | シフトの通知 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1か月単位 | 1か月以内 | 業種の制限なし | 上限なし(期間平均で週40時間以内) | 就業規則または労使協定(労使協定は届出) | 期間が始まる前に各日の労働時間を確定 |
| 1年単位 | 1か月超〜1年以内 | 業種の制限なし | 1日10時間・1週52時間 | 労使協定と届出 | 労使協定で労働日と労働時間を定める(期間を区切る場合、2つ目以降は各期間の初日の30日前までに書面で定める) |
| 1週間単位 | 1週間 | 小売業・旅館・料理店・飲食店で常時30人未満 | 1日10時間・1週40時間 | 労使協定と届出 | その週が始まる前に書面で通知 |
| フレックスタイム制 | 清算期間3か月以内 | 業種の制限なし | 上限なし(1か月超の清算期間は月ごとに週平均50時間以内) | 就業規則と労使協定(1か月超は届出) | 始業・終業時刻は従業員が決める |
1か月単位の変形労働時間制
最もシフト制と相性が良い制度です。1か月以内の期間を平均して週40時間以内に収めれば、1日の労働時間に上限はありません。期間内に組める所定労働時間の合計(総枠)は「40時間×期間の暦日数÷7」で計算します。
| 期間の暦日数 | 総枠(週40時間) | 総枠(特例の事業場・週44時間) |
|---|---|---|
| 28日 | 160.0時間 | 176.0時間 |
| 29日 | 165.7時間 | 182.2時間 |
| 30日 | 171.4時間 | 188.5時間 |
| 31日 | 177.1時間 | 194.8時間 |
週44時間の特例は、常時10人未満の商業、映画・演劇業(映画の製作を除く)、保健衛生業、接客娯楽業の事業場で使えます。就業規則または労使協定で、期間と起算日、各日・各週の労働時間を定めます。休日は毎週1日または4週4日以上が必要です。
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1年単位の変形労働時間制
季節によって繁閑がはっきりしている業種向けの制度です。総枠は365日の期間なら2,085.7時間です。長期間にわたるため、次のような制限があります。
- 1日10時間・1週52時間が上限
- 対象期間が3か月を超える場合、労働日数は年280日まで。週48時間を超える週は連続3週以内、3か月ごとに3回以内
- 連続して働かせられるのは原則6日まで(繁忙期として定めた特定期間は、1週に1日の休日が確保できる日数まで)
- 期間の途中で入社・退職した人は、実際に働いた期間を平均して週40時間を超えた分を割増賃金で清算する
1週間単位の非定型的変形労働時間制
日ごとの忙しさの差が大きく、予測しにくい小規模な小売業・旅館・料理店・飲食店(常時30人未満)だけが使える制度です。1日10時間まで、週40時間以内で組み、その週が始まる前に各日の労働時間を書面で通知します。緊急でやむを得ない場合は、前日までに書面で変更できます。週44時間の特例は使えません。
フレックスタイム制
清算期間(最長3か月)の総労働時間だけを決め、毎日の始業・終業時刻は従業員が決める制度です。2019年の改正で清算期間が3か月まで延びましたが、1か月を超える場合は1か月ごとに週平均50時間(30日の月なら214.2時間)を超えた分が時間外労働になり、労使協定の届出も必要です(厚生労働省|フレックスタイム制のわかりやすい解説)。会社がシフトで勤務時間を指定する働き方には向きません。
変形労働時間制が「やばい」「ずるい」「やめとけ」と言われる理由
変形労働時間制は「やばい」「ずるい」「やめとけ」「デメリットしかない」と言われることがあります。「ずるい」は、通常の職場なら残業代が出る1日10時間の勤務でも、所定労働時間の範囲内なら残業代が出ないことへの不満です。「やめとけ」「ブラック」と言われるのは、繁忙期の長時間勤務がきついことや、ルールを守らずに運用している職場があるためです。ただし多くは制度の誤解か、要件を満たしていない運用が原因で、制度そのものが違法なわけではありません。
繁忙期に1日10時間などの長時間勤務になりやすい
閑散期に短く、繁忙期に長く所定労働時間を配分するため、繁忙期は1日10時間、週50時間といったシフトが「残業なし」で組まれます。働く側からは、忙しい時期ほど体力的にきつく、残業代も出ないと感じやすくなります。ただし、1年単位なら1日10時間・週52時間、年280日などの上限があり、上限を超える所定は組めません。
8時間を超えても残業代が出ないと誤解されやすい
所定労働時間が10時間の日は、10時間までは時間外労働になりません。これを「残業代が出ない制度」と受け取られることがありますが、所定を超えて働いた時間や、期間全体の総枠を超えた時間には残業代が必要です。判定方法は後述の「残業代の計算方法」で解説します。
シフトを会社の都合で自由に変えられない
経営側から見た「やばさ」もあります。変形労働時間制は期間が始まる前に各日の労働時間を決めておく必要があり、始まった後に「暇だから今日は6時間で」と会社の都合で変更することは原則として認められません。急な人員の増減に合わせたい職場ほど、運用の難しさを感じます。
労働時間の計算と管理が複雑
時間外労働を日・週・期間の3段階で判定する必要があり、給与計算の担当者の負担が増えます。勤怠管理システムが変形労働時間制に対応していないと、手作業の計算で未払いが発生するおそれもあります。
「やめとけ」と言われる職場かどうか、働く側が確認したいポイント
- 就業規則や労使協定に、変形労働時間制の種類・期間・起算日が書かれているか
- 期間が始まる前に、各日の勤務時間がシフト表やカレンダーで示されているか
- 所定労働時間を超えて働いた分に残業代が出ているか(給与明細で確認)
- 1日・1週の上限(1年単位なら1日10時間・週52時間)や休日が守られているか
これらが守られていれば、閑散期は短い勤務や休みが増えるため、期間全体の労働時間は通常の働き方と変わらず、働く側が一方的に損をする制度ではありません。守られていない場合は、会社の人事担当者や、労働基準監督署の総合労働相談コーナーに相談できます。
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違法になるケースと注意したい運用
次のような運用は、変形労働時間制の要件を満たさず、通常の1日8時間・週40時間のルールで残業代を計算し直すことになるおそれがあります。
| 違法になりやすい運用 | 何が問題か |
|---|---|
| 「月の総枠内ならいつ働いてもよい」としている | 各日・各週の労働時間を事前に特定していない |
| 期間が始まった後に会社の都合で勤務時間を変える | 使用者が任意に労働時間を変更する制度は認められない |
| 1年単位で1日11時間や年300日勤務になっている | 1日10時間・1週52時間・年280日などの上限を超えている |
| 労使協定を結んだが届け出ていない | 1年単位・1週間単位、労使協定で定める1か月単位は届出が必要 |
| 途中で辞めた人の清算をしていない | 1年単位では働いた期間を平均して週40時間超の分を清算する必要がある |
| 18歳未満や、請求した妊産婦に適用している | 年少者は原則適用不可、請求した妊産婦は8時間・40時間超で働かせられない |
変形労働時間制を名目だけで導入し、実際には通常の残業代を払っていないケースは、労働基準監督署の是正勧告の対象になります。導入の要件は、厚生労働省のリーフレット(1か月単位の変形労働時間制)や、中小機構のJ-Net21でも確認できます。
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変形労働時間制の残業代の計算方法|日・週・期間の3段階
変形労働時間制の時間外労働は、次の3段階で判定します。前の段階で時間外労働として数えた時間は、次の段階では数えません。
| 段階 | 時間外労働になる時間 |
|---|---|
| ① 1日ごと | 所定を8時間超に決めた日は所定を超えた時間。それ以外の日は8時間を超えた時間 |
| ② 1週ごと | 所定を40時間超に決めた週は所定を超えた時間。それ以外の週は40時間を超えた時間(①で数えた分を除く) |
| ③ 期間全体 | 期間の総枠(30日なら171.4時間)を超えた時間(①②で数えた分を除く) |
計算例:1か月単位(30日・総枠171.4時間)
| 日・週 | 所定労働時間 | 実際の労働時間 | 時間外労働 |
|---|---|---|---|
| Aの日 | 10時間 | 11時間 | 1時間(所定10時間を超えた分) |
| Bの日 | 6時間 | 8時間 | 0時間(8時間以内なので割増は不要。2時間分の通常の賃金は必要) |
| Cの日 | 6時間 | 9時間 | 1時間(8時間を超えた分) |
| Dの週 | 45時間 | 47時間 | 2時間から、①で数えた分を除いた時間 |
| 期間全体 | 171.4時間 | 175時間 | 総枠を超えた3.6時間から、①②で数えた分を除いた時間 |
Bの日のように、所定より長く働いても8時間以内に収まる時間は「法内残業」と呼ばれ、割増は不要ですが、働いた分の賃金は支払います。時間外労働の割増率は25%以上で、月60時間を超える部分は50%以上です。
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変形労働時間制の導入手続き
導入の流れは、どの種類でもおおむね次のとおりです。
- 対象となる従業員と期間、起算日を決める
- 期間内の各日・各週の労働時間(1年単位は労働日と労働時間)を決める
- 就業規則に定める、または労働者の過半数代表と労使協定を結ぶ
- 労使協定や変更した就業規則を労働基準監督署に届け出る(常時10人以上の事業場は就業規則の届出も必要)
- 時間外労働の可能性があれば36協定も締結・届出する
- 従業員に周知し、期間が始まる前にシフトを確定して通知する
シフト制のパート・アルバイトに1か月単位を適用する場合は、就業規則に勤務時間のパターンと組み合わせの考え方、シフト表の作成手続きと周知方法まで定めておく必要があります。
変形労働時間制でシフトを正しく運用するには
変形労働時間制のシフトでは、総枠・上限・休日・連続勤務を同時に満たしながら、繁閑に合わせて人を配置する必要があります。手作業で組む場合は、次の点を確認しましょう。
- 期間の総枠(30日なら171.4時間)を従業員ごとに超えていないか
- 1年単位・1週間単位では1日10時間、1年単位では週52時間を超えていないか
- 毎週1日または4週4日の休日と、連続勤務の上限を守れているか
- 期間が始まる前にシフトを確定し、通知しているか
- 途中入社・退職者の清算や、18歳未満・妊産婦の扱いを確認しているか
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よくある質問
変形労働時間制だと残業代は出ないのですか?
出ます。変形労働時間制は、あらかじめ決めた期間を平均して週40時間以内に収めれば、特定の日や週に8時間・40時間を超える所定労働時間を組めるという制度で、残業代をなくす制度ではありません。所定労働時間を8時間超に決めた日はその所定を超えた時間、それ以外の日は8時間を超えた時間が時間外労働になり、週と期間全体でも同じように判定します。時間外労働には25%以上の割増賃金が必要です。
変形労働時間制は「ずるい」「やめとけ」と言われますが、働くと損ですか?
要件を満たして正しく運用されていれば、損にはなりません。繁忙期に所定労働時間が長くなる代わりに閑散期は短くなり、期間を平均すると週40時間以内に収まるためです。所定労働時間を超えて働いた分や、期間の総枠を超えた分には残業代も出ます。ただし、シフトが事前に決まっていない、所定を超えても残業代が出ないなど、要件を満たさない運用をしている職場もあるため、就業規則と給与明細を確認しましょう。
変形労働時間制でも36協定は必要ですか?
時間外労働や法定休日の労働をさせる可能性があるなら必要です。変形労働時間制で組んだ所定労働時間の範囲内であれば時間外労働にはなりませんが、その枠を超えて働かせる場合は36協定の締結と届出が必要です。なお、対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制では、36協定の上限が原則として月42時間・年320時間と、通常より短くなります。
1日10時間働くシフトは違法ですか?
変形労働時間制を正しく導入していれば違法ではありません。1年単位と1週間単位の変形労働時間制は1日10時間が上限です。1か月単位には1日の上限はありませんが、期間を平均して週40時間(特例の事業場は44時間)以内に収める必要があります。変形労働時間制を導入していない職場で1日10時間のシフトを組んだ場合は、8時間を超えた2時間が時間外労働となり、36協定と割増賃金が必要です。
決まったシフトを会社の都合で変更できますか?
原則としてできません。変形労働時間制は、期間が始まる前に各日・各週の労働時間を具体的に決めておくことが条件で、会社が業務の都合で自由に労働時間を変えられる運用は認められていません。1週間単位の変形労働時間制だけは、緊急でやむを得ない場合に前日までに書面で通知して変更できます。
変形労働時間制にすると休日は減りますか?
休日の最低ラインは変わりません。変形労働時間制でも、毎週1日または4週間で4日以上の休日が必要です。1年単位の場合は、対象期間が3か月を超えると年間の労働日数が280日以内に制限され、連続して働かせられるのも原則6日までです。
途中で入社・退職した場合の残業代はどうなりますか?
1年単位の変形労働時間制で、対象期間の途中で入社・退職した人は、実際に働いた期間を平均して週40時間を超えた分について割増賃金を支払って清算する必要があります(労働基準法第32条の4の2)。繁忙期だけ勤務して退職した人の長時間労働が、清算されないまま残らないよう注意してください。
パート・アルバイトにも変形労働時間制を適用できますか?
できます。ただし、シフト制のパート・アルバイトに1か月単位の変形労働時間制を適用する場合は、就業規則に勤務時間のパターンとその組み合わせの考え方、シフト表の作成手続きと周知方法を定め、期間が始まる前にシフトで各日の労働時間を確定させる必要があります。
18歳未満や妊娠中の従業員にも適用されますか?
18歳未満の年少者には原則として適用できません(1週48時間・1日8時間以内の1か月単位・1年単位などの例外あり)。妊娠中や産後1年以内の従業員が請求した場合は、変形労働時間制を導入していても1日8時間・週40時間を超えて働かせることはできません。育児や介護をする従業員などには、必要な時間を確保できるよう配慮する義務があります。
まとめ
- 変形労働時間制は、期間を平均して週40時間以内に収めれば、特定の日・週に8時間・40時間を超える所定労働時間を組める制度
- 1か月単位・1年単位・1週間単位とフレックスタイム制で、上限時間・届出・通知のルールが違う
- 「やばい」「ずるい」「やめとけ」と言われるのは長時間勤務・残業代の誤解・運用の難しさが理由。正しく運用すれば所定を超えた分には残業代が出る
- 時間外労働は日・週・期間の3段階で判定する
- 事前にシフトを確定し、上限・休日・届出を守ることが前提









