「労働時間」は、働く上で基本的なルールの1つです。特に働き方改革関連法が施行されてからは、労働者にとっても関心の高いテーマであり、会社と従業員との間で身近に発生しやすい問題の1つでもあります。
ここでは、労働時間の定義や基準、法規制など基本的な労働時間、労働時間に起こりがちなトラブルの例などを紹介します。適切な労働時間管理、健全な経営を行うためにぜひ参考にしてください。
「労働時間」とは
労働時間とは「従業員が使用者の指揮命令下におかれている時間」を指します。使用者は、基本的に労働時間に対して賃金を払いますが、労働力のみに発生する時間ではなく、勤務時間そのものに対価が支払われるということです。
もう少し具体的にみていきましょう。労働基準法では、原則として1日の労働時間は休憩時間を除いて8時間、1週間40時間以内(※)と定められており、これを「法定労働時間」といいます。一方、会社が就業規則に定めている労働時間は「所定労働時間」といい、法定労働時間の定めた範囲内で自由に設定できます。
(※)こちらの労働時間制度は「固定労働時間制度」と呼ばれていて、1日単位で労働時間が定められている制度になります。こちらに対し、1週間、1ヶ月間、1年間単位で労働時間を定め、休憩時間を除いた労働時間が平均して1週間40時間以内とする制度もあり、これを「変形労働時間制度」と呼びます。
▼ 「変形労働時間制度」については、以下の記事も参考にしてください
変形労働時間制とは?正しい運用のためのシフト表自動作成のススメ
始業から終業までの所定労働時間を「勤務時間」、休憩時間を差し引いた時間を「労働時間」としています。制服に着替える時間、朝礼、準備なども含まれます。
休憩時間は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上与えなければならないとされています。
休憩時間は、労働者が権利として指揮命令下の状態から離れることが保証された時間という解釈のため、原則として賃金は発生しません。ただし、決められた休憩時間でも実務をしなければならない場合は休憩時間とはみなされません。
労働時間か、休憩時間かの判断が難しく問題に発展しがちなのが「待機時間」や「仮眠時間」です。
待機時間は、手待ち時間ともいわれ、終了した仕事と次に請け負う仕事の合間に生じる空白の時間です。この場合は、たとえ一定の時間が経過しても休憩とはならず、労働時間と認められます。というのも、待機時間は休憩時間のように定められた時間ではなく仕事を受けるために待機することが義務づけられている時間であり、指揮命令下から離れてよい時間ではないからです。
仮眠時間は、対応する必要がある場合労働時間とみなされます。たとえばホテル勤務、病院勤務などは、仮眠中でも電話や利用者への対応、器具・設備の点検などを義務づけられているため労働時間とみなされます。
ほかにも所定労働時間内の研修、業務での外出、移動なども労働時間に含まれますが、通勤時間、自由参加の研修、出張の移動時間などは過去の判例から労働時間とは認められていません。
「労働基準法」「労働安全衛生法」との関係性
労働時間は、「労働基準法」だけでなく「労働安全衛生法」とも深く関わりがあります。
労働安全衛生に関する項目はもともと労働基準法の中にあり、1972年に「労働安全基準法」として独立・制定されましたが、会社ではこれらの法律を総じて運用することが求められています。
労働安全衛生法は、従業員の健康を守りながら安全に働ける労働環境を提供するためのものです。労働基準法に基づく労働時間も、労働者の健康に関わるということです。
労働安全衛生法第52条には、従業員の労働時間の把握義務、また66条では勤怠の客観的な記録の保存と安全配慮義務が明記されています。
時間外労働や休日労働などが法定労働時間を超えた場合には、従業員に通知し、疲労など健康上の問題が懸念される場合は医師面接の指導を行う必要があります。労働時間も、労働者の健康に関わるということです。
残業時間はどうなる?
法定労働時間は1日8時間、1週間40時間です。また法定休日というのもあり、1週間に1回または4週間に4日以上と定められています。法定労働時間を超える場合は残業、法定休日を超える場合は休日労働となりますが、それらを行うためには「36協定」を結ぶ必要があります。
労働基準法第36条では、時間外労働・休日労働のあるすべての事業所に労使協定を結ぶことを義務づけています。36条に規定されていることから、36協定と呼ばれています。
▼ 「残業」や「36協定」については、以下の記事も参考にしてください
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労使協定とは、会社が時間外労働・休日労働の上限を定めるために従業員の過半数代表あるいは労働組合との間に交わされる協定のことで、合意した内容を書面にし、所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
働き方改革関連法の施行から、残業時間には上限が設けられるようになりました。時間外労働の上限は原則として1か月45時間、1年で360日であり、これを超える労働は認められません。
臨時的に特別な事情があってやむを得ない場合でも、年720時間以内です。また、時間外労働と休日労働の合計は基本的に月100時間未満、2~6か月の平均が80時間以内となっています。
参考)厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf
労働時間に関する起こりがちなトラブル例
労働基準法や36協定では、労働時間の解釈や認識の違いなどによってトラブルに発展することもあります。どのような例があるのかみていきましょう。
残業代未払い
一般的な労働時間は1日8時間、1週間40時間ですが、業務内容に合わせて労働時間の配分を変えられる制度があります。
労働時間制にはみなし労働時間制、年俸制などがあり、これを利用した残業未払いなどの事例が発生しています。みなし労働時間制は、外回りや現場など指揮命令下におかれるのが難しい職種に対して、あらかじめ見込まれた労働時間分が支払われる制度です。早く終わっても遅くなっても残業代は発生しません。
年俸制は1年分の業務の評価によって支払われる、いわゆる成果型報酬の働き方であり、労働時間で評価されているものではありません。そのため、これらの制度で働いている従業員は一般的な労働時間が適用されず長時間労働になっても残業代が支払われないというケースがあります。
名ばかり管理職の時間外労働
労働基準法41条では「管理監督者」は経営者と一体的な立場にあるとして、時間外労働・休日労働は支払われません。しかし役職をつけて管理職となったものの、判断や決定権のない、いわゆる「名ばかり管理職」にされてしまい、本来支払われるべき割増賃金が支払われなくなっているケースもあります。
管理職であることと管理監督者であることは同じではなく、また管理監督者であっても法に守られた労働者であることには変わりがありません。厚生労働省でも管理監督者に関する解説したガイドラインを設けています。
参考)厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000123090.pdf
労働時間に関するシフト管理の注意点
働き方改革関連法では、時間外労働をなくす取り組みが行われていますが、一方で時間で評価できない裁量労働制など労働基準法の適用外となる労働制度へ移行する動きが助長されるのではと懸念されています。
労働生産性の維持・向上には、ワークライフバランスが重要で、適切な労働時間、労働日数、休暇を管理する必要があります。そのためシフト管理やシフト表作成では、必要な人数の見極めが大切です。忙しい時期、曜日、時間帯を把握し、適切に業務ができるようバランスよく配置しましょう。
また人手不足という理由で長時間労働を強いたり、従業員の体調や事情を考慮せずにシフトを組んだりするのは、ストレスによる病気を発症する恐れがあり、労働安全衛生法の観点からも十分に配慮すべき点と言えます。
会社側にとっても、提供する製品やサービスの質が低下する可能性もあります。従業員を守ることもシフト管理の大切な役割です。法律や就業規則に則して労働時間を見直し、シフト表の作成を行いましょう。
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まとめ
労働時間という言葉はよく使われますが、その定義や解釈は曖昧になっているケースも少なくありません。会社・従業員それぞれにとってどのようなものなのかを理解し、適切な労働時間管理、働きやすい職場づくりを行いましょう。
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